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活動報告
「子どもの閉塞性睡眠時無呼吸〜歯科医の役割〜」を視聴して
2025年4月1日から1ヶ月間、オンラインで公開されたBSCワンデイセミナー2025「子どもの閉塞性睡眠時無呼吸 〜歯科の役割〜」を視聴しました。
このセミナーは、私が所属するBioprogressive Study Club(BSC)が主催した講演会で、例年は会員以外の参加も可能ですが、今回は会員限定で開催されました。
講演に先立ち、文野弘信新会長による挨拶と解説が行われました。文野会長は、まず2003年に設立された日本睡眠歯科学会の初代理事長である故・菊池哲先生を紹介され、次のように述べられました。「菊池哲先生は、BSC発足当初からの重鎮であり、長年にわたり国際渉外理事を務められ、海外の学会やアメリカ、フランスの矯正医との友好関係を築かれました。その菊池先生が立ち上げた日本睡眠歯科学会において、先生の情熱と熱意を受け継いでおられるのが、本日の講師である夫馬吉啓先生です。
また、Zerobase Bioprogressive Philosophyを実践する私たちが考慮すべき“7つのハーモニー”の一つに、機能的な問題があり、その中に姿勢と呼吸が含まれています。これは睡眠とも密接に関係しています。会員の皆さまには、講演内容をしっかりと記憶に刻んでいただくために、ぜひ何度も繰り返し視聴していただきたいと思います。」
続いて、担当理事の惣卜友裕先生よりセミナーの案内があり、いよいよ夫馬吉啓先生の講演が始まりました。夫馬吉啓先生は、日本睡眠歯科学会の認定医・評議員であり、今回のセミナーでは以下の3つの内容についてご講演されました。
① 睡眠に関する最新知識のアップデート
② 成人の閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)について
③ 小児の閉塞性睡眠時無呼吸症について
① 睡眠に関しては、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド」をもとに、睡眠の特徴について解説されました。日本は世界でも最も睡眠時間が短い国の一つであり、睡眠時間が5.5時間未満になると死亡リスクが1.5倍になるという、非常に興味深いデータも紹介されました。
② 成人のOSAについては、2003年に発生した新幹線運転士の居眠り運転事故をきっかけに、一般にも広く知られるようになったと述べられました。
OSAは、睡眠中に一時的に呼吸が停止することで眠りが浅くなり、日中の強い眠気を引き起こす睡眠障害です。患者は生活習慣病(薬剤抵抗性高血圧、メタボリック症候群、心不全、心房細動、糖尿病、冠動脈疾患など)との関連が報告されており、それぞれの疾患との関連度は異なります。
発症の構造的要因としては、脂肪の沈着、扁桃肥大、小顎(下顎後退)、舌根や軟口蓋の気道への落ち込み、巨大舌、鼻閉、アレルギー性鼻炎などが挙げられます。
また、機能的な要因としては、加齢による気道周囲の筋力低下、疲労、飲酒や睡眠薬による筋緊張の低下が考えられます。
OSAの診断にはPSG(終夜睡眠ポリグラフ)検査が用いられ、治療法にはCPAP(持続陽圧呼吸療法)、口腔内装置(下顎前方移動型や舌前方保持型)、外科手術などがあります。なお、口腔内装置の作成にあたっては、医科による診断と依頼が必要とされています。
③ 小児OSAの有病率は、乳幼児から思春期までの間で約2%とされており、認知機能や発達への悪影響、頭蓋顔面発育障害を引き起こす可能性があるとされています。
小児では、小下顎や歯列弓の狭窄が上気道閉塞の主な原因であり、さらに鼻閉が顎骨の正常な成長を妨げている可能性もあります。
OSAの概念を提唱したDr. Christian Guilleminaultは、小児のSDB(睡眠呼吸障害)や慢性的な鼻呼吸障害によって、睡眠中の努力性呼吸や日中の鼻閉・開口習慣が後天的な要因となり、上顎・下顎の劣成長を引き起こすと述べています。
夫馬先生が提唱された筋骨格系の仮説によると、上気道抵抗の増加によって顎顔面に異常な成長が起こり、それが「お口ポカン」の状態に繋がるといいます。
この状態では、雑菌を含んだ空気が直接喉に入ることで局所的な炎症が生じ、扁桃肥大を招き、さらに上気道の抵抗が増加して鼻呼吸の質が低下します。これにより、喉の通りを良くしようとする結果として、姿勢の悪化(猫背)にも繋がっていくとのことです。
口唇閉鎖不全(いわゆる「お口ポカン」)は、日本の子どもの約30%に認められ、自然に改善されにくいとされています。
文献レビューによれば、小児のOSAには機能的矯正装置の有効性が示されており、早期の介入により呼吸や鼻呼吸を恒久的に改善し、上気道閉塞を予防できると期待されています。ただし、コンセンサス会議では現時点でエビデンスが不十分であり、その効果については未だ確定的とは言えないとされています。
歯科医師の立場としては、OSAの確定診断は医師のみが行うものですが、顎顔面成長発達の専門家として、歯科医師はOSAのスクリーニングを行い、その根本的原因の特定に寄与することで、医師による疾患管理をサポートする役割が求められています。
最後に夫馬先生は、学校歯科の活用とその重要性を強調され、特に矯正歯科医は医科との連携を積極的に行っていただきたいと述べられました。
また質疑応答では、「お口ポカン」の年代別治療法、重症度による治療法の選択基準、扁桃摘出の判断基準や医科への紹介方法など、多岐にわたる質問にも真摯かつ丁寧にご対応されました。
今回のセミナーは、文野会長が冒頭で述べられた通り、BSCが発足当初から治療に取り入れている“機能”とりわけ呼吸や睡眠に関する、最新の知見を含んだ非常に有意義な内容でした。
質疑応答での夫馬先生のご対応からは、責任感が強く、真面目で誠実なお人柄が感じられました。
広範囲にわたるテーマを分かりやすく整理してご講演いただき、心より感謝申し上げます。